『ゾーン』の誤読・限界・実務との差 IV
前回のおさらい
「エッジを持つ」には三段階があり、この本が入口で要求するのは段階②(勝敗比率の見当がついた作業仮説)、到達点は段階③(信頼して実行できる本物の優位性)だった。「検証」にも計算と弁別の二層があり、入口が求めるのは計算の側だけだった。
ここまでは、この本が入口で何を要求しているかの話である。今回から、この本のもう一つの顔を見る。
一般的な理解
『ゾーン』はこう説明されることが多い。
「手法の良し悪しは扱わない本。すでにエッジを持っている人が、それをブレずに実行するためのメンタルの本」
前回までに見たとおり、この理解は大枠では正しい。しかし、これだけではこの本の半分しか捉えていない。
ダグラスは、心理が実行を左右するとだけ書いたのではない。心理がどのトレードを選ぶか、さらにはそもそも何が見えるかにまで及ぶ、と書いている。
多くの解説が触れていない部分である。原文を見ていこう。
証拠その1:心理は「選択」に及ぶ(第3章)
第3章の末尾に、こういう一節がある。
"traders with losing attitudes pick the wrong trades regardless of how much they know about the markets... On the other hand, traders with winning attitudes who know virtually nothing about the markets can pick winners; and if they know a lot about the markets, they can pick even more winners."
負けの姿勢を持つトレーダーは、市場についてどれだけ知っていようと、間違ったトレードを選ぶ。一方、勝ちの姿勢を持つトレーダーは、市場についてほとんど何も知らなくても勝ちトレードを選べる。そして市場をよく知っていれば、さらに多く選べる。
読み流しやすい一節だが、主張は強い。知識量ではなく姿勢が、選ぶトレードを決めると言っている。
これは「エッジは持っているが、恐怖で引き金が引けない」という執行の話ではない。どれを選ぶかという、判断そのものの話である。
証拠その2:心理は「発見」に及ぶ(第8章)
第8章の末尾には、さらに踏み込んだ記述がある。