『ゾーン』の誤読・限界・実務との差 VII
前回のおさらい
カジノの比喩から借りてよいのは態度であり、数字の性質は借りてはいけない。あなたの手元の勝率は、計算された恒久的な事実ではなく、過去の記録から推測した暫定的な見当である。
だとすれば、次の問いが立つ。その暫定的な見当が、本物の優位性なのか、それともたまたま過去に合っただけなのか。誰が、どうやって見抜くのか。
この本はここを扱っていない
第3回で、検証には二つの層があることを確認した。
一つが計算としての検証で、「このルールで過去100回試したら60勝40敗だった」という数字を出す作業。もう一つが弁別としての検証で、「その数字は本物か、それとも過去のデータにたまたま当てはまっただけか」を見抜く作業である。
この本が入口で要求するのは前者だけだった。では後者は、この本のどこで扱われるのか。
どこにも書かれていない。
これは手落ちではない。前書きで宣言された通りの、意図的な線引きである。「私はトレーディングシステムを提供しない」。エッジをどう見つけ、どう検証し、どう育てるかは、はじめからこの本の守備範囲の外にある。第11章でも「この演習はシステム開発の話ではなく、あなたの分析能力のテストでもない」と念を押している。
守備範囲を絞ること自体は、書物として何ら不当ではない。すべてを一冊で扱おうとすれば、どれも浅くなる。
問題は別のところにある。その切り捨てられた領域にも、心理が深く関わっているということだ。
過去チャートを開いたときに起きること
具体的に考えてみたい。あるルールを思いつき、過去のチャートで確かめようとする場面である。