チャートを開き続けると待てなくなる
「チャートに向かっている時間が長いほど上達する」という感覚は、多くの人が疑いなく持っている。時間を投じることは努力であり、努力は報われるはずだ、と。
だが、情報に触れる頻度と判断の関係については、いくつかの研究が存在する。そしてそれらは、この直感と逆の方向を指している。
先に、扱う範囲を限定しておく。
本記事が扱うのは、ポジションを取れる状態で、入る場所を探しながらチャートを開き続けている時間である。 検証としてチャートに向かっている時間は、対象ではない。同じ「見ている」でも、この二つは行っていることが違う。理由は後述する(C-4)。
その上で、証拠を並べる。ただし例によって、確立している知見と、そこからの推論と、支持できない主張を分けて書く。同じ調子で並べるのは誠実ではない。
【A】確立していると言える知見
A-1. 結果を見る頻度が下がると、判断が変わる
行動経済学に、近視眼的損失回避(Myopic Loss Aversion)と呼ばれる現象がある。
代表的な実験を紹介する。GneezyとPottersが設計した投資ゲームでは、被験者に9回の独立した投資機会を与える。各回、3分の1の確率で投資額の2.5倍が返り、3分の2の確率で失う。期待値としては投資したほうが有利な設定である。
被験者は二つの群に分けられる。
高頻度群:9回を1回ずつプレイし、毎回結果を見てから次に進む
低頻度群:3回をまとめてプレイし、3回分の結果をまとめて見る
同じゲーム、同じ確率、同じ期待値。違うのは結果を見る頻度だけである。
結果は明確に分かれた。情報の提示頻度が低いほど、リスクテイクが増えた。つまり、有利な賭けに対して、適切に賭けられるようになった。
ThalerとKahnemanらも同種の実験を行い、同じ方向の結果を得ている。この現象はその後、実際のトレーダーを対象とした研究でも確認されている。バングラデシュの個人投資家を対象に、実験室での行動と2年間の実際の取引データを突き合わせた研究では、トレーダーの行動が近視眼的損失回避と整合的であり、情報の頻度と順序が投資判断に重要な影響を与えうることが示された。
この研究の著者らは、示唆として次のように書いている。フィードバック頻度の高い期間と低い期間を交互に持つことが、トレーダーの利益になりうる、と。
ここで注意しておく。この実験群が扱っているのは、判断を下せる状態で情報に触れる頻度である。単にデータを眺めている時間の長さではない。
A-2. ノイズが多いほど、人はパターンを見てしまう
完全にランダムな並びにも、連続や塊は普通に現れる。むしろ連続がまったく現れない並びのほうが不自然である。にもかかわらず、人はそこに意味を読み取る。クラスター錯覚と呼ばれる傾向で、これも繰り返し確認されてきた。
そして重要なのは、ノイズの多いデータほど、この誤認が強く出るということだ。
値動きのチャートは、その条件をよく満たしている。
ここに、時間の要素が加わる。チャートは24時間動き続けている。開いている時間が長いほど、目に入るノイズの総量が増える。ノイズが増えれば、そこに現れる「それっぽい塊」の数も増える。
A-3. 当てにいくと、成績は下がる
心理学の古典的な課題がある。二つのランプがあり、片方が70%、もう片方が30%の確率で光る。どちらが光るかを毎回予想させる。
最適な戦略は単純だ。毎回70%の方を選び続ける。それだけで70%当たる。
ところが人間はそうしない。70%の方を7割、30%の方を3割の頻度で選ぶ。パターンを読もうとするのである。この選び方の正答率は、0.7×0.7+0.3×0.3で約58%。当てにいった結果、12ポイント下がる。
確率マッチングと呼ばれ、広く再現されている。
原因の説明は一つに確定していないが、有力視されているものの一つが「パターン探索」である。ランダムな並びを信じられず、規則を見つけて出し抜こうとする。
【B】ここから導かれる推論
以上を組み合わせると、次のことが導かれる。