勝率に「騙される素人」と「騙されないプロ」の思考術
「この手法、勝率70%だよ」──その言葉、なんとなく信じてない? 数字ってすごく説得力がある。でも、その「70%」ってどこから出てきた? どんな相場で? どんな条件で? ……そこまで読み取ってる人は、実はほとんどいない。
数字に安心してしまうと、「未来もこうなるはず」と思い込みやすくなる。思い込んだ結果、勝率90%って書いてあったものを買ったのに10連敗!そして、「これはおかしい」と言い出す。トレードの世界で同じ未来なんて二度とこない。条件は日々変わるし、相場は生き物みたいに動き続ける。数字が語ってるのは"過去"の一部でしかない。
実はこの問いに、100年以上前にヒントをくれた人がいる。統計学者フランシス・ガルトンだ。彼は「不確実な世界で数字をどう扱うか」という視点を、ある実験を通して私たちに残してくれた。彼が注目したのは単なる平均じゃなくて、"数字の裏側にあるパターンやばらつき"っていう構造。まさに、今のトレーダーが陥りがちな思考の落とし穴を突いてる。
数字の裏側にある構造が見えるようになると、不確実な世界でも適切な判断ができるようになる。その視点を持っているかどうかが、変化に飲まれずに生き残れるかどうかの分かれ目。
牛の重さ当てコンテストが教えてくれた「数字の罠」
1906年、統計学者フランシス・ガルトンは、イングランド西部の家畜展示会で興味深い光景に出会った。「この牛を精肉にしたときの肉の重さは何ポンドか?」という重量当てコンテストが開催されていたのだ。参加者たちは6ペンスを払って予想を提出し、全部で約800人が参加した。
ガルトンが後に分析したのは787枚の予想票。その結果は驚くべきものだった。
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中央値:1,207ポンド(約547kg)
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平均値:1,197ポンド(約543kg)
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実際の肉の重さ:1,198ポンド(約544kg)
興味深いことに、ガルトンが当初発表したのは中央値の1,207ポンドで、実際の重量との誤差は9ポンド(約0.8%)だった。しかし後に計算された平均値1,197ポンドは、実際の重量1,198ポンドにさらに近い、わずか1ポンドの誤差だった。
ここに重要な洞察がある。同じデータから「中央値」と「平均値」という異なる数字を取り出すと、違う答えが出てくる。どちらも「群衆の知恵」を表す数字として正当性があるにも関わらず、だ。
この違いが生まれるのは、それぞれの統計指標が異なる特性を持っているから。中央値は極端な予想に影響されにくく、平均値は全体のバランスを反映する。どの指標を選ぶかで、同じ現実に対する「解釈」が変わってしまう。
ゼリービーンズ実験が暴いた「人気の答え」の落とし穴
統計学者デビッド・スピーゲルハルター氏と数学コミュニケーターのジェームズ・グライム氏は、現代版の興味深い実験を行った。YouTubeで瓶に入ったゼリービーンズの写真を公開し、「何個入ってる?」と視聴者に問いかけたのだ。
915人が回答した結果
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モード(最頻値):10,000個(最も多くの人が選んだ答え)
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平均:約2,400個(全体平均)
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中央値:約1,800個
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実際の数:1,616個
この実験で明らかになったのは、「一番人気の答え」が必ずしも正解に近いとは限らないということ。10,000個という答えを選んだ人が最も多かったけど、これは実際の数の6倍以上も大きい。
なぜこんなことが起こるのか?——多くの人が「キリのいい数字」を選んだり、「大きめに見積もっておこう」という心理が働いたり、誰かの極端な意見に引っ張られたりしたから。つまり、最頻値は「ノイズが重なっただけ」の結果だった可能性が高い。
ここでの教訓は、数字の裏側にある「どんなパターンで答えがばらついているか」を見ないと、表面の数字に騙されてしまうということ。
さて、ここまでを踏まえて、サポートメンバー限定で、そこらじゅうでよく見かける統計詐欺に合わないためのトレードの具体的な話に入っていく。これがわかっていると、自分のトレードのデータを分析するときに事実を見誤らずにすむし、なにより、詐欺からの強力な自衛策になる。
トレードで見落としがちな「数字の裏側」
トレードでよく目にする「勝率」「PF(プロフィットファクター)」「平均利益」といった数字も、実は見せ方次第で良くも悪くも見せることができる。